先日の木村花さんの事件以降,国が発信者情報開示請求について,議論を重ねています。
その中で,このようなニュースが流れてきたので,私の方でツイートをしました。
まぁそうしないと担保金がエグいことになるからだろうけど、明らかに酷いものは任意でも開示して欲しいですね。
ちなみにアメリカでは電話番号の開示があります。— 弁護士ビーノ⚖動画クリエイター×AI研究 (@bino_bengoshi) June 4, 2020
このニュースからわからないことがありませんか。
相談者さん
そうですよね。
なぜ,携帯電話の番号を開示することの議論になっているのか。
今回は,発信者情報開示請求における携帯電話の番号を開示する意味と,併せて弁護士会照会について少しお話をしたいと思います。
また,今後の議論がどのようになるのか,更なる問題点についても考えていきたいと思います。
ではいきましょう。
- 品川区で弁護士をしています。
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1 現状の発信者情報開示請求の問題点
もし,誹謗中傷や個人情報を暴露された場合には,その発信者が誰なのかを,プロバイダ責任制限法に基づき「発信者情報開示請求」を行う必要があります。
ただし,発信者情報開示請求が裁判手続を経ず,任意に認められることはほぼありません。
基本的には,民事保全手続を経る必要があります。
しかも,民事保全により,発信者情報開示の仮処分を行うためには,数十万円の担保金を積む必要があるのです。
これは,SNSから誹謗中傷がされた場合には,SNS側に1回とプロバイダ側に1回の計2回必要となります。
これでは一般の市民の方に利用しやすい手続であるとは到底言えません。
なお,発信者情報開示請求不備があることに関しては,別の記事でもお話をしていますのでぜひご覧ください。
【木村花さん自殺】誹謗中傷について思うこと弁護士が熱く語ります。2 総務省案による発信者情報開示
では,今回のニュースにも取り上げられていた総務省案による発信者情報開示請求が実現するとどうなるのでしょうか。
この点については,総務省発表のスライドがあるので,それを見た方がわかりやすいのでそちらをご覧ください。
最大のポイントは,コンテンツプロバイダ(例:SNS)から,開示される情報に携帯電話の番号が含まれることにより,アクセスプロバイダ(例:ドコモ等のキャリア)に対する開示をする必要がなくなるということです。
今まで2回やっていた裁判が1回で足りる(任意の開示が増えれば裁判も不要)ので,担保金(約30万円)の納付も最低1回で済むことになります。
もっといえば,携帯電話の番号が開示された時点で,相手に電話をかけて確認すれば足りるということになると思います。
3 携帯電話のキャリアに対する弁護士会照会
さて,みなさん疑問に思いませんか?
なぜ,弁護士ビーノが,携帯電話の番号を開示されることでアクセスプロバイダ(例:ドコモ等のキャリア)に対する開示をする必要がなくなるといっているのか。
結論としては,「弁護士であれば,携帯電話の番号から住所・氏名を調べることができる」手続を使えるからなんです。
この手続の名前を「弁護士会照会」といいます(通称:23条照会)。
まず条文を見てみましょう。
<弁護士法引用>(報告の請求)第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
相談者さん
弁護士びーの
- (1)手数料 7,000円
- (2)消費税 700円
- (3)郵便料 808円(簡易書留基本料金往復分)
合計8,508円
つまり,裁判費用の30分の1くらいの費用で開示ができてしまいます。
開示までの期間はおおよそ2週間程度のため,早期の開示が実現することとなります。
4 更なる問題点
今回総務省が,発信者情報開示請求について議論を重ねていますが,更なる問題点もあると思います。
https://twitter.com/bino_bengoshi/status/1268572384866430976?s=20
そもそも,SNS,Twitterであれば,アカウント登録の際に携帯電話番号の登録することを義務付ける必要があるのではないかということです。
現状のTwitterだと,携帯電話番号の登録なしでも登録ができるようです。
この点については,捨て垢で逃げられる可能性も考慮すると,携帯電話番号がないと使用できないような状況にしないといけないのではないかと思います。
あとは,誹謗中傷と批判の境目がわからないという議論があります。
ただ,相手をリスペクトしない表現については,批判を明らかに超えていると思いますし,何にも根拠もなしに,軽々と叩くことは許されないと感じています。
誹謗中傷は,表現の自由の趣旨からしても,一切保護には値しないと考えています。
いかに適切な被害者保護を行うかを検討すべきです。
今後も誹謗中傷に関する発信者情報開示請求の議論については,更新していきたいと思っています。
5 まとめ
では、今回の復習をしていきましょう。
- 現状の発信者情報開示請求だと、費用がかかりすぎて使えないというのが弁護士の実感
- 新たな制度により、携帯電話番号が開示されれば、弁護士により住所・氏名の特定ができる
- 弁護士会照会という制度があり、携帯電話会社に情報の開示ができる。
- 今後の問題として、SNSに携帯電話番号を登録していない場合の措置を考えないといけない。
今回は以上。また次回の記事でお会いしましょう〜